会社・事業の買収・売却に関する記事(第108回)がNNAに掲載されました

今回は、2022年に発表された、マレーシアの国営電力テナガ・ナショナル(TNB)の子会社による英国の風力発電事業の買収案件について取り上げるとともに、マレーシアにおける再生可能エネルギーの位置付けについて見ていきます。 

テナガは4月4日、子会社であるバンテージREが、独立系アセットマネジメント会社であり、世界有数のクリーンエネルギー投資会社であるキャピタル・ダイナミクスが運営する複数のファンドから英国の陸上風力発電事業の株式100%を取得したと発表しました。

テナガは売上高530億リンギ(約1兆6,335億円)、時価総額550億リンギのマレーシア最大手の電力会社で、政府系ファンドのカザナ・ナショナルが筆頭株主となっています。テナガはマレーシア国内のみならず、英国、クウェート、トルコ、インドなどで再生可能エネルギー事業に投資しており、50年までには温室効果ガスの排出を実質ゼロにする”NET ZERO 2050”を達成するため、年間約200億リンギの設備投資を目指すことを発表しています(※1)。1.  

バンテージREは、英国および欧州において太陽光発電・陸上風力発電・洋上風力発電から成る再生可能エネルギー事業の運営管理を手がけるテナガの100%子会社で、17年に設立され、英国に本社を構えています。  

今回バンテージREは、総額1億4,590万ポンド(約242億円)、リンギにして約8億リンギを投じて、発電容量97.3メガワットの陸上風力発電事業の株式100%を取得しており、4月4日付のテナガのプレスリリースによると、この買収によりバンテージRE全体で発電容量が530メガワットに達し、テナガが成長市場の中核となる洋上風力発電事業において存在感を高める重要なマイルストーンになるとしています(※2)。

マレーシアの再生可能エネルギーは、主に太陽光発電、バイオマス・バイオガス、水力発電で構成されています。現状、太陽光発電がそのうちの50%以上を占めていますが、高地と多くの河川があり、バイオマス資源が豊富にあるため、水力発電、バイオマス・バイオガスの分野においても成長が期待されています(※3)。3

マレーシアでは11年に持続可能エネルギー開発庁が設立され、再生可能エネルギー促進のための施策や支援が行われています。政府は再生可能エネルギーの割合を19年時点で8%程度だったものを25年までに20%まで引き上げることを目標にしています(欧州全体では19年時点で19.9%、日本は18%、中国が25.5%、米国は16.8% ※4)。4.).  

石油や天然ガスの産出国であることもあって、マレーシアでは電気自動車(EV)の普及があまり進んでおらず、発電も化石燃料に大きく依存しているものの、テナガや国営石油・ガス会社であるペトロナスなど、多くの企業が脱炭素に意欲を示しています。  

近時の再生可能エネルギー事業における日系企業のマレーシアでの活動としても、出光興産が22年7月20日に、同社が出資するシンガポール企業を通じてジョホール州にある複合大学施設「エデュシティー・イスカンダル」内にあるレディング大学の校舎の屋根に太陽光発電を設置し電力供給事業を開始することを発表するなど、政府が掲げた目標達成の道半ばである今、日本企業にとっても大いなるビジネスチャンスがあると言えそうです。

※1 <https://www.tnb.com.my/assets/press_releases/2022081760bi.pdf

※2 <https://www.tnb.com.my/assets/files/Reference_No._GA1-31032022-00060.pdf

※3 <https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/b7fda4e47ab81da4/20210016_01.pdf

※4 <https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2021/007/

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