会社・事業の買収・売却に関する記事(第96回)がNNAに掲載されました

今回は、M&AやIPOの際の評価や取引先との関係性についてご紹介します。

前回に引き続き、ベンチャー企業のエグジット(出口、投下資本の回収)戦略としてのマレーシアのM&AとIPO(Initial Public Offering、新規上場)について検討します。

1. バリュエーションについて

IPOの場合、一定期間の純利益の金額が要件として課されることが一般です。例えば、マレーシアのメインマーケットの場合、「過去3~5事業年度において同一事業を継続しており、税引き後利益の合計が2,000万リンギ以上であり、かつ、直近の事業年度の税引き後利益が600万リンギ以上であること」という要件が、エースマーケットの場合、「300万から400万リンギ以上の税引き後利益があること」という要件がそれぞれ課されます(第76回参照)。そのため、赤字基調の会社の場合は上場が認められにくいのが現実です。

一方、M&Aであれば事業価値の算定に決まりはなく、当事者が合意した金額で売却することができます。事業価値の評価の算定においては、①インカムアプローチ、②マーケットアプローチ、③ネットアプローチを比較検討して総合的に評価することが行われるところ(事業価値算定については後日稿を改めて検討します。)、仮に対象会社が赤字基調であったとします。この場合、①インカムアプローチをとったとき、将来の収益力がプラスであると評価されれば事業価値はプラスとなりますし、②マーケットアプローチをとったときも、株価純資産倍率(PBR)やEBITDA(減価償却費支払利息控除前税引前利益)倍率ではプラスになることもありますし、③ネットアプローチをとったとしても、純資産がプラスであれば事業価値もプラスとなります。このように、M&Aにおける事業価値算定の方がポジティブに出やすい面もあり、IPOが難しくてもM&Aは実行できるというのが普通です。

2 取引先との関係

一般に、会社が上場すればそれだけ信用度が増しますので、取引先にとってIPOは歓迎すべきことであると言えます。

一方、会社の支配権の変更を伴うM&A(特に51%以上の議決権を有する株主が変更する場合)の実現は、対象会社の性質を変えることも多いため、対象会社の株主の属性を信頼して取引に入ったような取引先にとって大きな影響を与えかねません。そのため、契約書中にいわゆるチェンジオブコントロール条項という条項が設けられていることがあり、それに該当する場合、取引先は期限の利益を喪失させたり(それによって例えば分割払いではなく全額を一括で弁済しなければならないようになる)、契約を解除したりすることができます。このように、重大な契約にチェンジオブコントロール条項が入っている場合には、M&A実現の妨げとなることもあり、M&A実施前のデューデリジェンスではその有無について入念に調査するのが一般です。

https://www.nna.jp/news/show/2352265

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