前回は、2021年の日本企業によるマレーシアでの合併・買収(M&A)の動向を振り返りました。今回は、21年の日本企業が関連したM&A案件の金額トップ15とその動向を見ていきます(以下、データはいずれもレコフ調べ)。
1. M&A金額上位15件
21年1~12月の日本企業が関連したM&A案件は総額で16兆4,844億円となりました。このうちIN―OUT(日本企業による海外企業に対するM&A)が7件、OUT―IN(海外企業による日本企業に対するM&A)が8件と、クロスボーダー案件が独占する形となりました。

2.大手企業による事業構造改革
21年のM&A金額トップは、米地銀最大手のUSバンコープによる三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下のMUFGユニオンバンクの買収で、取引総額は1兆9,349億円となりました。ユニオンバンクは、邦銀傘下としては米州最大規模で、MUFGによるM&A後、同行の米国事業の中核を担ってきました。しかし、今回対象となったリテール(個人・中小企業向け)事業は、世界的な低金利環境と金融のデジタル化が進む中、米西海岸を中心とした約300ある実店舗の運営コストが重荷となっていました。MUFGは今後、競争力維持のため決済サービスなどのデジタル分野への投資に力を入れるほか、米国での銀行業務を大企業向け中心の法人部門に絞り、収益の安定化を図る狙いがあるようです。
続いて2位と3位は日立グループの案件で、日立製作所による米IT企業グローバルロジックの買収が1兆36億円、米投資ファンドのベインキャピタルなどで構成される日米ファンド連合による日立金属の買収が8,168億円となりました。日立はこれまでにも、日立キャピタルや日立化成などの上場子会社を売却して、事業の選択と集中を進めてきました。事業再編の計画は、今回の日立金属の売却によりほぼ完了とし、今後はモノのインターネット(IoT)を軸に経営資源を集中していくとのことです。
<プロフィル>
神林義之(かんばやし・よしゆき)、ラジフ・ラムザン(Razif Ramzan)
LIKEARISINGSUN SDN. BHD. Founder / CEO、日本国弁護士。2015年来馬。17年にM&Aアドバイザリー業務および進出支援等のコンサルティング業務を手掛けるLIKEARISINGSUN SDN. BHD.(ライクアライジングサン、https://likearisingsun.com.my/)を立ち上げて独立。案件の組成、ソーシングからDDや契約書作成などのM&Aの実行、PMIまで全段階をアドバイザーとしてサポートしている。また、日本にLIKEARISINGSUN法律事務所、マレーシアに人材派遣会社のBeable Malaysia SDN. BHD.、人材紹介会社のAgensi Pekerjaan I-Staff SDN. BHD.をそれぞれ有する。提携先ローファーム等と協働し、各種企業法務や、コンプライアンス、解雇や不祥事などの訴訟・紛争案件まで、日系企業のマレーシアでの活動を幅広くサポートしている。マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)経営委員・中小企業委員・中小企業相談室室員。連絡先:yuki@likearisingsun