The Daily NNA Malaysia版(2022年1月4日)に、弊社代表の寄稿した「会社・事業の買収・売却 第84回 グラブのIPOと直近のM&A」について掲載されました。本記事では、グラブの米国でのIPOとジャヤ・グローサーの買収についてご紹介します。
2021年12月2日、シンガポールの配車サービス大手グラブは、買収されることを目的とした上場会社(特別買収目的会社、SPAC)であるアルティメーター・グロースとの間でいわゆる裏口上場を行い、第三者割当増資の形で約45億米ドル(約5,230億円)を調達しました。これにより、グラブの評価額は400億米ドル近くとなり、東南アジア企業による米国での上場としては最大規模となりました。
1.米国での新規株式公開(IPO)
グラブの発表によると、今回調達した資金は、グラブの事業拡大計画やスーパーアプリのエコシステム(ビジネス生態系)になるという目的、そして東南アジア全体でのプレゼンスを高めるための資金として使用されます。今回の資金調達は、アルティメーター・キャピタル・マネジメントが運用するファンドからの7億5,000万米ドル(約872億円)を筆頭に、払込済み金額で過去最大規模となる40億米ドル(約4,650億円)に達しました。このほかにも、これまでにソフトバンクやトヨタ自動車、三菱UFJ銀行(MUFG)などの日本企業がグラブに出資しています。
グラブはマレーシアではおなじみのアプリを運営する企業ですが、2人のマレーシア人によって12年に創業され、現在では8カ国、計465都市で事業を展開しています。料理の宅配サービス、配車サービス、食料品の配達、電子決済、金融サービスなどの消費者サービスなどを手掛け、「everyday everything(毎日の全て)」を1つのアプリで実現しています。グラブのスーパーアプリ戦略の要は、利用者の利用頻度を高め、ロイヤルティーと維持率を向上させるとともに、サービス提供のためのコストを削減することにあるとされます。
参考までに、ライドシェアを行う世界の同業他社には以下のような企業があります。

2.ジャヤ・グローサーの買収
21年12月13日、グラブ・ホールディングスは、マレーシアにおける高級スーパーの代名詞的存在であるジャヤ・グローサー・ホールディングスを買収すると発表しました。ジャヤ・グローサーの株主との間で、同社の食料品チェーンの普通株の全てと優先株の75%を総額18億リンギで購入する契約です。一定の条件の下、取引完了後にグラブはジャヤ・グローサーの残りの25%の優先株式を購入するオプションを持っていますので、近い将来には100%子会社化することが見込まれます。
今回の取引は、ジャヤ・グローサーの創業者であるテン・ファミリーが、三菱商事が立ち上げたAIGFアドバイザースからジャヤ・グローサーの全株式を買い戻したと発表してから、わずか17日後に行われたものです。
高級スーパーの同業他社としてはビレッジ・グローサーとB.I.G.があり、特にマレー半島部にお住まいの方であれば、どれかは日常的に利用されているのではないでしょうか。これら2社はいずれも投資ファンドであるナビス・キャピタルが株式の過半数を保有しています。

神林義之(かんばやし・よしゆき)、ラジフ・ラムザン(Razif Ramzan)