The Daily NNA Malaysia版(2021年8月4日)に、弊社代表の寄稿した「会社・事業の買収・売却 第73回 新規株式公開その1」が掲載されました。今回から数回にわたって、新規株式公開についてお話しします。
これまで3回にわたって出資と融資の違いについてお話ししました。近時、企業の信用調査を行う会社であるCTOSデジタルが上場したニュースが報道されていましたが、今回から数回にわたって、新規株式公開についてお話しします。
1.新規株式公開とは
新規株式公開のことを英語ではInitial Public Offering、略してIPOと言います。新規株式公開を実施した会社は上場会社(Listed Company)と言います。
出資と融資の違いの中でご説明したように、株主は会社の議決権を有しており、株主総会において重要事項に係る意思決定に関与することが可能です。そのため、一般に小規模な未上場の会社の場合、株主の個性が他の株主にとっても重要であるため、株式を譲渡するには会社の承諾が必要であり、株主は少数かつ特定の人に限定されています。なお、マレーシアでは、未上場会社には、Sdn Bhd(Sendirian Berhad)という略称が使われます。
このような未上場会社の株式を証券取引所(株式市場)に上場し、株式市場での売買を可能にすることで、一般に対して株主となる機会を開放し、その結果として広く資金を集めることを企図して実施されるのが新規株式公開です。マレーシアの上場企業には、Bhd(Berhad)と言う略称が使われます(上場している会社だけでなく、株主数が50人以上で、かつ、株式譲渡制限がない会社はBerhadとなります)。
2.新規株式公開の種類
新規株式公開には、新株を発行して株式市場から資金を調達する「公募増資」(Primary Offering)と、既存株主が保有する株式を市場に放出する「売り出し」(Secondary Offering)があります。前者の場合は発行済み株式数が増えるとともに、調達した資金は会社に振り込まれるため、会社の成長資金に充てることができます。
3.新規株式公開のメリット、デメリット
上場のメリットはいろいろとあります。まず、上場することで株式市場を通じて不特定多数の投資家から幅広く資金を調達することが可能になります。投資家も、株式市場を通じていつでも株式を譲渡して投下資本を回収することができるので、誰が将来、株式を買い取ってくれるか分からない未上場会社への投資に比べて、はるかに投資しやすいといえます。
次に、会社の知名度や評価が向上するメリットがあります。一般に、上場していることはステータスであるという認識がありますし、未上場会社に比べて上場会社の方が日々のニュースに取り上げる機会も多いです。
3つ目に、会社の知名度や評価が向上することにより、優秀な人材を確保することが可能になるというメリットもあります。
その一方で、上場するための準備期間と費用がかかること、上場後も投資家保護のために定期的な企業情報の開示(disclosure)が義務付けられ、そのための時間と費用がかかること、投資家が株主総会等を通じて意思決定に参加するようになるので投資家対策が必要になること、短期的な成果を求める投資家等の期待に応えるために経営が近視眼的になりがちであること、といったデメリットがあります。
<プロフィル>神林義之(かんばやし・よしゆき)、ラジフ・ラムザン(Razif Ramzan)