The Daily NNA Malaysia版(2021年5月25日)に、弊社代表の寄稿した「会社・事業の買収・売却 第68回 マレーシアのM&A案件その6」が掲載されました。2021年3月31日に発表された富士工業による現地の販売会社の買収事案及び同年5月10日に発表されたリアルテックファンドによるエアロダインに対する出資案件についてご紹介しています。
前回は、2021年3月26日にマレーシアにて実施されたSTGによるマレーシアのアルミダイカストメーカーの株式取得案件についてご紹介しました。今回は、同31日に発表された富士工業による現地の販売会社の買収事案および同5月10日に発表されたリアルテックファンドによるエアロダインに対する出資案件についてご紹介します。
1.富士工業による買収
(1)日本でマーケットシェア1位を誇るレンジフードメーカーである富士工業
富士工業は、1941年に川崎市で設立されました。62年に神奈川県相模原市に工場ができ、74年には本社も相模原市に移っています。厨房用電気製品一般を生産し、特にレンジフードの製造・販売においては日本のマーケットシェアの過半数を占める圧倒的なナンバーワン企業として有名です。
同社のウェブサイトによると、従業員数は約850人、売上高は260億円。相模原市のほかに福島県白河市に工場を有するほか、シンガポールと上海に現地法人を有しています。
(2)マレーシアでの販売代理店であったJKマーケティング
富士工業の21年3月31日付ニュースレターによれば、JKマーケティングはレンジフードを中心にガスコンロやIH、オーブン、ウオーターヒーターといった富士工業の住宅設備機器を販売してきました。電化製品店でFUJIOHのブランドで販売されているのをご覧になったことのある読者の方も少なくないかと思いますが、マレーシアではFUJIOHは日本発の高品質ブランドとして知られています。
今般、富士工業のシンガポール現地法人を通じてJKマーケティングを買収し、社名を「FUJIOHマーケティング」に改称するとのことです。同ニュースレターによれば、富士工業は「引き続き市場ニーズに合わせた商品・サービスを提供するとともに、現在、西マレーシア(マレー半島部)を中心に展開するディーラーネットワークを拡張させ、さらなるFUJIOHブランドの認知向上を図り、マレーシア首位ブランドを目指す」とのことです。
2.リアルテックファンドによるエアロダインへの出資
リアルテックファンドはリアルテックホールディングスにより運営されるファンドで、リアルテックホールディングスはユーグレナとリバネスの合弁企業です。同ファンドは21年5月10日に、世界第2位と評されるマレーシアのドローン(小型無人機)サービスプロバイダーであるエアロダインへの出資を発表しました。エアロダインに対しては19年3月にドローンファンドが、20年にはリバネスキャピタルがそれぞれ出資しており、日本との関係を非常に深めています。
エアロダインは14年にマレーシアで設立され、インフラ分野に注力してきました。今後は、プランテーションなどの農業分野にも力を入れるとのことで、今回のリアルテックファンドからの資金調達は、日本市場進出および将来的な東京証券取引所での上場を検討するための戦略的なものであるとのことです。日本の証券取引所の地盤沈下がかねて叫ばれる中、ぜひエアロダインの東京証券取引所への上場が実現してもらいたいものです。
<プロフィル>
神林義之(かんばやし・よしゆき)