The Daily NNA Malaysia版(2021年5月12日)に、弊社代表の寄稿した「会社・事業の買収・売却 第67回 マレーシアのM&A案件その5」が掲載されました。2021年3月26日にマレーシアにて実施されたSTGによるマレーシアのアルミダイカストメーカーの株式取得案件についてご紹介しています。
前回は、2021年3月16日に発表された日本ペイントグループ(以下「日本ペイント」)によるマレーシアの塗料周辺製品メーカーの株式取得案件についてご紹介しました。今回は、21年3月26日にマレーシアにて実施されたSTGによるマレーシアのアルミダイカストメーカーの株式取得案件についてご紹介します。なお、ダイカスト(ダイキャスト)とは、金型鋳造法の一つで、金型に溶けた金属(溶湯)を圧入することで高い寸法精度の鋳物を短時間で大量に生産する鋳造方式のことをいいます。
1.マグネシウムおよびアルミダイカスト製品製造を行うSTG
STGは、1975年に大阪で設立されました。製品軽量化を得意とする、マグネシウムダイカストを中心とした、金型の設計、金属部品の鋳造、機械加工、仕上げ、化成処理までをワンストップで行う事業を展開しています。日本国内では大阪と静岡に工場を持ち、海外では香港、深セン、タイに拠点を持っています。19年6月にはTOKYO PRO Marketへの上場を果たし、20年3月期の売上高は約25億円、純利益は約1億6,000万円を記録しています。大阪工場は30人、静岡工場が40人、中国工場が50人、タイ工場が220人、そして今回傘下に加えたマレーシア工場が470人という陣容です。
2.アルミダイカストメーカーであるSTXプレシジョン
(1)対象会社概要
STGの21年3月26日付プレスリリースによれば、STXプレシジョンはマレーシア・ジョホールバルに拠点を置き、大手グローバルメーカー各社を主要顧客とし、電気機器部品、自動車部品などのさまざまな製品に対応が可能であるアルミダイカストメーカーです。創業は06年、ジョホールバルに3つの工場があり、資本金は約3億4,000万円、19年度における純資産は約7億円、売上高は約18億円、約1億1,000万円の純損失を計上しています。
今般、STGは、STXプレシジョンの発行済株式の全てを6億5,400万円で取得しました。STXプレシジョンに対してマレーシアの地場のプライベートエクイティファンド(PEファンド)が13年に出資していたところ、同出資から既に7年が経過していたため、同ファンドによるExit(持分売却)が予想されていたところでした。
(2)出資の狙い
STGのプレスリリースによれば、STGは「将来に向けて新規事業やM&A(合併・買収)を積極的に展開し、特に海外における生産能力向上・サプライチェーン(調達・供給網)の多元化を目指すことを経営課題として」きたとあります。そして、STXプレシジョンとは、「生産における互いの強みを融合することで、生産技術の向上を図ることができる」こと、さらに、「主要顧客の重複もほとんどなく、STGのマグネシウムダイカスト技術の移転などによるサプライチェーンの多元化などのシナジー効果を見込んでいる」とのことです。19年のTOKYO PRO Marketへの上場に引き続く今回のSTXプレシジョンの買収でSTGのさらなる事業展開が期待されます。
なお、本件の関係者によれば、コロナ渦のため買収監査などにおいては日本から出張者が来ることなく現地で対応したとのことで、現地への渡航が難しい中でも関係者が工夫を凝らしてクロスボーダーM&Aを実行していることがわかります。
<プロフィル> 神林義之(かんばやし・よしゆき)