今回は前回に引き続き、実際にデューデリジェンスの結果判明した事象が問題となったケースを取り上げて検討します。
(2)資産・負債関係
資産を査定する上で、不動産の価値を時価で評価するか、簿価で評価するかが論点となることはしばしばあります。特にマレーシアでは、不動産の価格が歴史的に上昇を続けており、不動産の購入日が古ければ古いほど簿価と時価との乖離(かいり)が大きくなる傾向にあるため、簿価で評価すると価値が実態と離れすぎてしまうということがあります※。[1]
一方、買い手としては、不動産が対象事業の事業継続に不可欠である場合、買収後にその不動産を転売できず、すぐには実現できない大きな含み益を抱えることになります。それを避けるために、不動産を対象事業からオーナー所有の別法人に移転し、当該不動産を対象会社に賃貸するスキームが取られることがあります。
筆者が以前関与した案件でも、このスキームを前提にデューデリジェンスを進めた事案がありました。しかし、デューデリジェンスを続ける中で、1)不動産を新会社に移転すると事業ライセンスを新規で取得し直さなければならないこと、2)不動産を新会社に移転するために想定以上の税金が発生すること、3)不動産の区分所有権保存登記がなされていないこと、4)専有部分と共用部分の境界に争いがある――といった数々の問題が発覚しました。
1)1つ目については、第100回<https://www.nna.jp/news/result/2378307>でも触れたように、事業ライセンスは通常会社にひも付いているので、事業譲渡でなく株式譲渡を行うのが一般的であるのですが、その事案では不動産を切り離したいというのが買い手の条件でした。新規のライセンス発給が凍結されているか、発給が可能だとしても相当程度の時間がかかることが分かり、まずその点がネックとなりました。
2)不動産の移転にかかる税金については、不動産を取得してからの経過年数と対象会社の属性によって税率が変わること、対象会社に対しては最も高い税率が課されることが分かり、それを売り手と買い手のいずれがどのような割合で負担するかが議論になりました。
3)3つ目については、対象不動産がいわゆる区分所有法が施行される前に建てられたものであったこともあり、対象不動産の所有名義が旧所有者であるデベロッパーのままになっていなかったため、中間省略登記の可否や対象会社に対して速やかに移転登記ができるかといった点が問題となりました。
一般的に、売り手から口頭で聞いていた内容と、実際にデューデリジェンスを通じて確認できた内容とが異なっているということは多いのですが、問題点の正確な把握にはデューデリジェンスが不可欠であることを改めて感じる機会となる案件でした。
https://www.nna.jp/news/show/2395165
[1] ※例えば、クアラルンプール市の居住用不動産の平均価格は2000年には24万5,249リンギ(現在のレートで約774万円)だったのに対し、21年第1四半期(1~3月)には70万8,812リンギへと年平均5.6%の割合で上昇しています。
https://www.edgeprop.my/content/1901376/residential-property-market-performance-over-20-years