会社・事業の買収・売却に関する記事(第101回)がNNAに掲載されました

今回は前回に引き続き、実際にデューデリジェンスの結果判明した事象が問題となったケースを取り上げて検討します。

(2)資産・負債関係

メーカーの買収の事案で、工場の建物の一部がいわゆるマレーリザーブドランド(マレー居住区)にかかっていることが分かった事案がありました。

マレーリザーブドランドはマレー系※にしか所有・賃貸・担保権設定といった取引が認められていない土地で、その起源はマレーシア独立よりもさらに前、英国植民地時代の1913年にさかのぼり、趣旨はマレー系の権利を保護しようとするものです。もし日系が当該会社の所有者となるとマレーリザーブドランド部分の土地建物の所有が認められなくなってしまうので、その土地を対象会社から切り離すか、何か別のスキームを考える必要があります。

その案件では、マレーリザーブドランドの上に建てられている建物の一部を取り壊すことはできず、マレーリザーブドランドの土地部分だけを切り離し、その部分の所有権をノミニー(名義貸人)を用いた別のマレー系の会社に移すスキームで検討していました。しかし、買い手において、万一のリスクの観点からノミニーを用いることはできないという判断がなされました。その結果、マレーリザーブドランドの所有権を適式に移すことができず、その工場は事業継続に不可欠のものだったので、結局その案件自体が破談となりました。

次に、合併・買収(M&A)ではなく日本における融資案件ですが、依頼者が取引先に対し主な製造装置を担保に融資を行おうとしたところ、当該製造装置に既に他の債権者の担保権が設定されていることが判明した事案がありました。

他の債権者に対して有効な担保権が設定されていると、後から来た債権者は原則として劣後しますので、目的物が被担保債権額を大幅に上回るといった事情がない限り、後から来た債権者は当該目的物で債権を保全することが難しくなります。抵当権のように登記簿を見れば先順位の抵当権が設定されているかすぐに判明する不動産と違って、動産に担保権が設定されている場合、必ずしも外部からその存在を明らかにすることができないため、現地調査をはじめとしたデューデリジェンスが不可欠となります。

その事例では、製造装置そのものに債権者の名前などを刻印する明認方法が施されておらず、現地調査では担保権の存在を明らかにできませんでしたが、デューデリジェンス中に担保権の設定を約した契約書が出てきて先順位の担保権の存在が明らかになりました。明認方法がないため他の債権者との優劣関係が必ずしも明らかではなかったものの、その製造装置によって自己の債権が100%保全されるわけではなく、他の債権者との間で争いが発生する可能性があることを嫌った依頼者は、当該製造装置ではなく対象会社の株式などを担保として取得することで融資を実行することになりました。

https://www.nna.jp/news/show/2384279

※関連法令では、マレー系の定義として、イスラム教を信仰し、マレー語を話し、マレー民族に属する人々を指すとされています。

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