今回は、実際にデューデリジェンスの結果判明した事象が問題となったケースを取り上げて検討します。
(1)ライセンス関係
ライセンスの有効期限が経過している例だけでなく、そもそも必要なライセンスを保有していなかったといった例は頻繁に発生します。マレーシアでは事業に必要なライセンスが全てきちんとそろっているというケースの方がむしろ珍しいと言えるくらいです。
また、何がその事業を行う上で必要なライセンスというのかが必ずしも明確ではなく、当局の担当者によってライセンスの要否の判断が分かれることもしばしばあるというのが頭を悩ませるところです。
弊社で担当したケースでも、対象会社がメイン事業に必要と思われるライセンスを取得していないケースがありました。対象会社のオーナーである売り主によると、「自分たちの事業は○○ではなく△△に該当するのでライセンスは不要である。同業他社の多くも同じ解釈でライセンスを取っていないから調べてみるとよい。これまで20数年間この事業を継続してきて当局から指摘を受けたことなど1度もない」とのことでした。実際に調べてみると、ライセンスを保有していない同業他社が多く、結局そのケースでは、売り主の説明に乗る形でライセンスなしのまま事業を引き受けることになりました。日本的な感覚からすると当然ライセンスが必要であると考えられたのですが、一からライセンスを申請しても相当な時間がかかることが見込まれることも考えあわせ、多少のリスクを受け入れる形で現実的な対応をしたものです。特にマレーシアでは、ライセンスを保持していない場合でも直ちに事業停止などのペナルティーが科せられないことも多いことから、ライセンスの種類などにもよりますが、ライセンスの不備に対して日本ほど過敏にならなくてもよいと言えるかもしれません。
別のケースでは、必要なライセンスの承継のために事業譲渡ではなく株式譲渡を選択したことがありました。事業譲渡の場合には、ライセンスを譲り受けることはできず譲受人において新たに一からライセンスを申請し直さなければならない一方、株式譲渡であれば、ライセンスに影響を与えずにそのままの形で承継することができるためです。ここで注意が必要なのは、マレーシアの国営石油ペトロナスや国営電力テナガ・ナショナル(TNB)の工事を受注するためのライセンスや、教育、物流、人材業界などには、外資規制やブミプトラ規制が存在していることです。外資100%になってしまうとそれらを満たせなくなってしまうことから、ローカルやブミプトラのノミニー(名義貸し人)の選任が必要となりますし、ライセンスの更新に影響を与えないように更新時期と株主の変更のタイミングなども含めて注意して譲渡を実行する必要があります。