個人や企業が意見の相違が生じた際に、紛争解決方法を理解することは、公正かつ効率的な解決を図る上で非常に重要です。この記事では、マレーシアにおけるさまざまな紛争解決方法とそれに関連する法的枠組みや手続きについて解説します。
マレーシアで一般的に用いられる「裁判手続き」「仲裁」および「調停」の3つの主要な紛争解決方法詳しく説明します。それぞれの方法には独自の特徴、利点、考慮事項があります。紛争解決方法の選択に影響を与える要素を理解することは、満足のいく結果を得る上で重要です。各アプローチの長所と短所を検討することで、紛争解決の際において適切な決定をするための知識を提供することを目指しています。
紛争解決の方法として、訴訟手続、仲裁、調停を表形式で以下簡単に比較します:
項目 | 訴訟手続 | 仲裁 | 調停 |
---|---|---|---|
プロセス | 当事者は、裁判官に事件を申立て、裁判官は証拠や法的な議論を踏まえて、拘束力のある判決を下す。 | 当事者は、意思決定者の役割を担う1人以上の仲裁人に事件を申し立てる。仲裁人は、証拠や議論を踏まえて、拘束力のある判断を下す。 | 調停人は中立的な立場にある第三者であり、紛争当事者間の協議と交渉を促進する。調停人は、当事者が合意し得る和解策を検討し、双方が合意に至るための支援を行う。 |
コントロール | 判決は裁判官に委ねられているため、プロセスと判決において当事者がコントロール可能な範囲は限られている。 | 判断は仲裁人に委ねられているため、プロセスと判決において当事者がコントロール可能な範囲は限られている。 | 当事者は、積極的に和解策の策定へ参加することで、判決をコントロールすることが可能。 |
意思決定 | 裁判官は、法と証拠に基づき拘束力のある最終的な判決を下す。 | 仲裁人は、証拠と議論に基づき拘束力のある最終的な判断を下す。 | 調停人は、決定を下すのではなく、当事者が和解策を見出すための支援を行う。 |
代理 | 裁判手続きにおいて、個人は当事者自身を代理とすることが可能であるため、弁護士の選任は必須ではない。一方で、会社は、高等裁判所の法廷弁護士及び事務弁護士を代理人として選任する必要がある。 | 仲裁手続の当事者は、一般的に弁護士が代理を務める。しかし、仲裁手続は1976年弁護士法の適用範囲外であるため、当事者は一般人または外国弁護士による代理を選択することもできる。 | 調停前及び調停手続において、法定代理人を選任することは必須ではない。 |
法的拘束力 | 裁判所の判決には法的拘束力があり、法制度における強制力を有する。 | 仲裁による判断は、一般的に国内外の法の下で強制力を有する。 | 調停による合意は任意であり、当事者がそれを正式なものとすることを選択した場合にのみ法的拘束力を有する。 |
守秘義務 | 訴訟手続は、一般に公開される。 | 仲裁における守秘義務は、仲裁手続の規則及び合意によって異なる。 | 調停手続は通常守秘義務があり、当事者間で率直かつ正直な議論を行うことができる。 |
費用・時間 | 裁判は、訴訟手続や複数の審理、弁護士による代理業務により、時間と費用がかかることがある。 | 仲裁は、特に複数の審理や専門家証人が関与する場合、調停よりも時間と費用がかかることがある。 | 調停は、一般的に、裁判や仲裁よりも時間と費用がかからない。 |
当事者間の 関係性 | 訴訟手続は、当事者間の関係を緊張させる可能性がある。 | 訴訟手続よりも対立関係が少なく、中立的な手続きである。 | 調停は、当事者間の関係を維持または改善することに注力する場合に選択される場合が多い。 |
専門性 | 裁判官は、法律の解釈と適用に関する専門知識を有する法律の専門家が務める。 | 仲裁にあたって当事者は、紛争の主題について専門的な知識を有する仲裁人を選任することができる。 | 中立的な立場にある第三者である調停人は、コミュニケーションと交渉を円滑に進める。 |
異議申し立て | 上級裁判所に控訴して判決に対して異議申し立てを行うことができる。 | 2005年仲裁法では、マレーシアで行われた仲裁判断に対して異議申し立てをすることはできない。高等裁判所に仲裁判断の取消を申請することでのみ、異議を申し立てることができる。仲裁判断取消の申請は、仲裁判断から90日以内に行う必要があり、取消する理由は、詐欺、自然的正義の原則に対する違反、または仲裁判断がマレーシア政府の政策に反する場合に限られる。 | 合意は自発的に行われるため、正式な異議申し立ての手続きは存在しない。調停が成功しない場合、当事者は訴訟または仲裁においてそれぞれの権利を追求することができる。 |
マレーシアでの紛争解決は複雑なプロセスですが、適切な選択をするためには利用可能な選択肢を理解することが重要です。この記事が有益な情報を提供し、紛争解決の際のご参考になれば幸いです。
著者: Daryl Khor (LL.B Hons) London, CLP
日付: 2023年5月18日