今回は、2022年に発表されたマレーシア企業による2件の合併・買収(M&A)案件をご紹介します。
■1. F&Nによる菓子・飲料メーカーへの出資案件
フレーザー&ニーブ・ホールディングス(F&N)は6月3日、既に27.66%の株を保有しているマレーシア菓子・飲料メーカーのココアランド・ホールディングスの100%株主となり、今年末までに非上場会社にすることを発表しました。
F&Nは1883年創業、マレーシアの国民的ドリンクとして知られる「100PLUS」などのソフトドリンクやスキムミルクなど、100%ハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)対象の商品を製造・販売する清涼飲料・乳製品メーカーで、売上高約41億リンギ(約1,273億円)、時価総額78億リンギに上ります。同社はシンガポールに親会社を有し全22ブランド、14の幅広いカテゴリーで商品を展開しており、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心に世界85カ国・地域に輸出しています。キリンホールディングスが一時、親会社の15%の株式を取得したこともありました。
ココアランドは1980年設立、売上高約2億1,000万リンギ、時価総額約7億リンギの菓子食品・飲料製品メーカーで、「ロット100」という名で広く知られるグミキャンディーや清涼飲料などを取り扱う、同じくハラル認証を受けている会社です。ココアランドもF&N同様、輸出に力を入れていて収益の50%近くは輸出により、近年は特にサウジアラビアなどの中東からの菓子需要が拡大したことで収益を伸ばしています。6月8日付スターによると、今回の出資によりF&Nはより大きな流通網を獲得、さらには既存の事業の柱である飲料・乳製品・ミネラルウオーターに加え、第4の柱としてパッケージ食品事業の拡大が期待され、強力なビジネスシナジーが生まれるとしています(※1)。
■2. 携帯DiGiとセルコムの統合案件
ノルウェー系の通信会社のDiGiドットコムとセルコム・アクシアタは6月29日、マレーシア通信マルチメディア委員会(MCMC)から両社の統合について承認を受けたことを発表しました。統合後には新会社である「セルコムDiGi」を設立するとしており、それぞれの親会社であるテレノールとアクシアタ・グループとで、それぞれ31.1%、残りは政府系機関の出資により構成し、引き続きマレーシア証券取引所(ブルサ・マレーシア)に上場されます。
DiGiは1995年設立、売上高約63億リンギ、時価総額約300億リンギで、マレーシアにおける携帯電話サービスの市場シェアはマキシスに次いで第2位です。
一方のセルコムは売上高約66億リンギ、時価総額260億リンギの88年創業の会社で、市場シェアは第3位です。今回の統合により、現在シェア第1位のマキシスを超えてトップシェアを握ることになり、2022年内の統合を目指しているとのことです(※2)。
22年6月29日付のDiGiのプレスリリースによると、今回の統合を受けて向こう5年間で最大2億5,000万リンギを投じて、首都クアラルンプールに第5世代(5G)移動通信システム、人口知能(AI)、モノのインターネット(IoT)技術を活用した研究を手がける世界クラスのイノベーションセンターを建設し、マレーシアを世界のデジタル進化の最前線に立つ国としたいとのことです(※3)。両社の既存の技術とネットワーク、統合によるスケールメリットを生かした今後のさらなるサービス向上が、近年ますます求められるデジタル化の推進に寄与することが期待されています。
i https://www.thestar.com.my/business/business-news/2022/06/08/synergy-in-fns-acquisition-of-cocoaland
ii https://www.theedgemarkets.com/article/axiata-shareholders-greenlight-celcomdigi-merger
iii https://corporate.digi.com.my/media/celcom-digi-merger-receives-mcmc-clearance