今回も前回に引き続き、デューデリジェンスの結果判明した事象が問題となったケースを取り上げて検討します。
(3)契約関係
契約関係では、契約全てをレビューすることは現実的でも必要でもないので、客先、サプライヤー、ベンダーなどのうちの取引額上位10社、工場やオフィス、倉庫といった業務遂行に特に必要な賃貸借契約、一定期間の継続が予定される継続的供給契約、個別契約の前提となる取引基本契約などの重要な契約に絞って契約書をレビューする対応が一般的です。このとき、レビューを行う弁護士が、表計算ソフト上で契約の類型別にシートを作成し、縦軸に取引先名、横軸にレビューすべき項目を記載し、レビューを行いながらその表に必要な情報を落とし込み、一覧化する作業に従事することになります。このときに最初からレビューが必要な項目が網羅されていればよいのですが、途中で要確認事項が追加されることがあり、そのときにはもう1度その要確認項目について最初から改めて契約書をレビューし直すといった対応が必要になることがあります。
契約関係において特に合併・買収(M&A)で問題となりやすいのは、これまでにも取り上げたことのあるチェンジオブコントロール条項です。これは、一方当事者の所有権に重大な変更があった場合には、他方当事者に契約の解除や期限の利益の喪失等の権利や地位が認められるというものです。例えば金融機関との消費貸借契約や大口取引先との取引基本契約などにこれが規定されていることが多く、海外子会社の金融機関からの借り入れを親会社である日本本社が保証しているような場合、保証契約書中に必ずこの条項があるので注意が必要です。海外子会社の買い手が当該金融機関の既存取引先であったり、信用力の高い上場企業であったりすれば買い手に保証契約を付け替える(買い手が当該借入の保証人となる)ことが認められることが多いと思われますが、買い手が非上場企業であったり、現地企業であったりすると保証契約の付け替えが認められない場合が多く、その場合には当該借り入れを直ちに弁済しなければならないことになります。その弁済資金は買い手が負担するので、買い手としては当該借入金を弁済することをあらかじめ想定した上で買収資金の調達計画を立てることが必要と言えます。
また、取引基本契約書についても同様の注意が必要です。チェンジオブコントロール条項があれば、契約の相手方は形式的に支配権の移転があったことをもって契約を無条件に解消できてしまうのが一般的ですので、買い手としては期待していた取引がM&A実行後に消滅してしまうリスクがあります。そのため、買い手としては、特に競合先との契約などは打ち切られる可能性が高いものとして将来の事業計画を策定し、対象会社のバリュエーションを行うことが望ましいと言えます。